さて、焼き肉。
肉を食べながらいろいろな話をした。

ツヨシに今やりとりしている人って他にもいるか?と聞かれた。

ツヨシは、アプリからラインに連絡方法を移行したあとも、頻繁にアプリで足あとをつけてきたのでこちらの動向が気になっているのだろう。それだけ足あとをつけられて「他にはいませんよ」というのも白々しいので、正直に他にもいますよーと答える。

聞けばツヨシも他にも何人かいる、とのこと。まあそうだろう、婚活してたらそれが普通だしな。

それから、婚活のときのデート代についての話になった。ツヨシがこれまでデートしてきたのはモデル、女医、看護師…などだが、支払い前にわざとらしくトイレに立たれることもあったし財布を出さない人もいたし割り勘の人もいた、と。でもツヨシは対等な付き合いをしたいから割り勘派で、多めに出す分には構わない。金額じゃない、対等さが大事、と言った。

私は女の人とデートしたことないからわからないけど……いろんな人がいるんですねー。と返したが、対等というならもうちょっと店選びとかがんばれよ、と思った。対等が彼の主義なら、ほぼ初対面の私がどうこう言ってもしょうがなかろう。対等さは額面だけじゃないねん。

しかし今日は、頑張ってデートをリードしたら焼き肉に錬金された。等価交換は図らずとも成立した。

大きな仕事が終わったからという理由で焼き肉をごちそうしてくれたけど、ツヨシ自身が食べたかったから理由をつけたのか、理由がないとおごってくれないのか、それとも照れくさくて理由をつけたのかはさっぱりわからなかった。

ツヨシはいずれ家業の病院を継ぐ予定だ。それは…、どうなのだろう。私は、責任重いなあと思った。今でさえ多忙を極めている彼とデートを重ねて結婚して妻として自営を支える?そして医師?医師というのはとてつもないステータスで、尊敬とあこがれがあった。話を聞いていても現場で頑張ってるんやな、とも。しかしそんな人を支える責任はちょっと重すぎる。

無理かもしれないな、と冷麺を食べながら私は、クッパを頬張る彼を見て思った。好きならできるかもしれないが、そうじゃない。

先に食べ終わって、クッパ大王をぼーっと見つめながらゆっくり食べてくださいねーと声をかける。早食いはからだに負担がかかるよ、というかクッパ熱いだろう。

クッパ大王が実は言わなきゃいけなくって…と切り出す。持病があると。それを聞いたとき、責任のうえに持病はさすがにコンボがキツすぎると思った。ひとはいずれ何かの病にかかるが、今なのかと。

どうしようもない色々なことが、医師という輝かしい肩書を超えていった。

私には、無理だ。

まだ付き合おうともなんにもそういう話になっていないが、ツヨシは私を気に入ってくれている(ように見えた)。このままいけば交際の兆しもあっただろうに。


焼き肉のあと、ツヨシは駅まで送ってくれた。改札を通って振り返ってもまだこちらに手を振っていた。ひら、と遠慮がちに手を振り返した。電車に乗り込んで大きくため息。私は自分で縁を切っているのか、我慢すればいいのか、責任はいずれ慣れるものなのか。

惜しいが、彼を好きにはなれなかった。



さようなら、ツヨシ。